‐石丸麟太郎博士のEAGLE 8 に関する考察を以下に紹介します。
この中で先生は「EAGLE 8 はコンクリート構造物の補修・補強方法を抜本的に変えてしまう可能性を秘めた“夢の素材”である」と述べておられます。
コンクリート板の面外曲げ実験
厚さ8cm程度の発泡スチロール板両面に1cm厚のEAGLE 8 を塗布した1畳大の板に大人1人乗っても割れることなく大きく撓んで安定したからである。過去に種々のコンクリート板の面外曲げ実験を経験しているものとして、到底信じ難いものであった。
筆者が孫弟子にあたる鉄筋コンクリート板の権威者であるT先生が嘗て冗談交じりにつぎのような落し噺をされたことを思い出した。
「コンクリートの引っ張り強度は弱い。ゆえに、圧縮強度は強い。引張も圧縮も弱い材料はだれも使用しないからである。(笑い)」
コンクリートの引張強度は圧縮強度の1割程度と弱く、設計上は全く当にしていない。従って、引張力が作用する部位には鉄筋を配して補強しているのである。
コンクリートの引張強度について
ここで、やや専門的になるが引張強度について述べる。
単に引張強度という場合、例えば棒状の部材を両端で引張り破断した荷重を断面積で除した値をいうが、コンクリートの場合この試験法は技術的に難しく、円筒形のブロックを直径方向に圧縮して縦に割る「割裂試験」で代用している。
(チーズを箸ではさむと縦に割れる状況を想定して貰えば判りやすいと思う)
一方棒材を折り曲げて破壊させた強度を基に算定したものを、曲げ(引張)強度として用いている。曲げ強度に対する割裂強度比は1.5〜2とされているが、この事実は設計上余り重要視されていない。即ち、鉄筋コンクリート構造設計では鉄筋による補強が常識であり、コンクリートの引張強度は最初から念頭にないからである。
さて、前述のように、割裂強度より曲げ強度が大きいのは、伸び率(歪)が関係する。コンクリート材では最大引張強度近くになると、伸び率の増加のわりに強度増加が低下(通常塑性化)することに由来する。従って、伸び率の大きいものは曲げ強度が増加する。コンクリートの場合最大引張歪は設計の必要性がないことから定式化されていないが、過去強度式から推定すると0.02〜0.03%である。
衝撃を受けたEAGLE 8 の伸び率
筆者が衝撃を受けたのは、
前出のスチロール板の撓み性から換算すると「この材料‐EAGLE 8 の伸び歪は0.1%近くまであるのではないか?」と考えられたからである。実験したところ、0.07%程度の曲げ歪が確認された。今後、水・素材比を工夫することによりこれ以上の値が得られそうである。
この事実から考察すると、EAGLE 8 は分子レベルでの結合がセメントのそれに対して原理的に異なることが予想される。セメントの場合、硬化に際し内部にヘアークラック(微細な亀裂)が生じ、引張力に対し、亀裂端に応力集中がおこり強度が低下する(グリフィスクラック理論)とされている。紙シートの中央部に横に切り込み(ノッチ)を入れると急に引張り強度が低下するのは日常経験することである。
一方EAGLE 8 では 内部の硬化に伴う亀裂がコンクリートに比較して数段少ないことが予想される。
EAGLE 8 を塗布するだけで強度が補強
この状態を受け入れると従来予想だにしなかった使用方法が考えられる。
先ず、鉄筋コンクリート床スラブである。設計は床板に作用する曲げ(モーメント)に対し鉄筋の補強量を定め余程特殊な荷重条件でない限りこれで終了である。一方、使用上の要求では床板の亀裂は避けなければならないが、一般に検討することは稀である。長期に亘った場合コンクリートには微細な亀裂が生じており、曲げ応力は鉄筋が負担しその歪はおよそ0.1%であり、その分剛性が低下している。ここにEAGLE 8 を施工すると、あと0.05〜0.06%の曲げ歪増加まで亀裂発生なく耐力増加が見込めることになる。
これは1cm厚さのEAGLE 8 を塗布した場合は剛性の低下が回復すると同時に0.05%/0.1%=0.5となって更に短期荷重を長期の50%まで亀裂なしで設計したことに相当するからである。また、これは1mあたり3〜4本のD10鉄筋を増加したことに相当する。要するにEAGLE 8 を塗布するだけで剛性・強度を事実上補強したことになるわけである。画期的な鉄筋コンクリート建物改修を実現することの出来る素材といえる。
曲げ亀裂のみならず、すでにせん断亀裂を有する耐震壁面に塗布した場合も同様な効果が見込めることが予想される(具体的数値は今後の実験による)。
EAGLE 8 はコンクリート構造物の補修・補強の手法を抜本的に変える、正に我々が長い間探し求めてきた、「夢の素材」であると考える。
2010年11月16日
工学博士 石丸麟太郎